何も掴まない手。
いつも空っぽ。カラッポ。
音もしない、無能な箱。
ただそれだけ。









暖かかった日のこと。
辺り一面草花で覆われていた。
甘くて、蒼くて。
どうしてココにいるんだろう。
ココがどこなのか、分からなかった。けれど知っている。
そんな気がしただけだったのだが。
サワサワ揺れる風は何も教えてくれないけれど、ずっとこのままが良いと思った。






暑かった日のこと。
どこまで伸びているのか見えない大木に囲まれて、木の根本に腰掛けていた。
遠くから聞こえる水の音。
けたましく耳を通っていく鳥の声。
体がジンジンして、頭がガンガンして。
目の前は真っ白。記憶も真っ白。
誰かが呼んでなんてくれなかったけれど、ずっとこのままが良いと思った。






涼しかった日のこと。
枝にしがみついていた葉達も、力つきて落ちてくる。
その上を一歩一歩、ガサガサ踏んでいった。
周りはどんどん消えていって、気付けば一人だけ座っていた。
乾いた地面だけも、風と共に飛んでいく。
チリチリ。パラパラ。
みんな私を置いていったけれど、ずっとこのままが良いと思った。






寒かった日のこと。
天から真っ白い欠片が降ってきて、辺りも、私自身も覆った。
チクチク刺さって、痛かった。
覆った白いモノも赤く染まった。
キンキン鳴って、音がして。
いつの間にか音も、色も見えなくなった。
白と赤しか分からなくなった。
どうすればいいのかなんて知らないけれど、ずっとこのままが良いと思った。









ずっとこのままが良いと思った。
何も変わらないままで。






暖かい日が良い。
暑い日が良い。
涼しい日が良い。
寒い日が良い。






  じゃあ。






「アナタはどれが一番良いの?」






初めて、誰かにそう聞かれて。
どこの誰かも知らない人に尋ねられて。






「分からない」






「どうして?」






「誰も  何も教えてくれなかったから…」






いつからか。
ずっと一人で。
ずっとこの場所で。






  それなら。









「一緒に考えようか  ?」









差し出された手。
どういう意味があるなんて分からなかったけれど。
ゆっくりと握る。






「さあ、考えよう」









ポタン。









虚空に満たされた私の中に、
何かが一滴落ちた音がした。






出会った日のこと。
ただそれだけのこと。



そして。






いつか来た、暖かい日のこと。






just - - だた…だけ
君にとってはただそれだけのこと。
ぼくにとっては大切なこと。