ずっと一緒だと思ってた。

守ってあげられると、側にいてあげられると。

笑うのも、怒るのも、泣くのも…全て、全て二人で分かち合えると思っていたのに。






出会いがあれば、必ず別れはあるのだと。



分かっていたけれど。












「ん……」
窓から突き抜けるように部屋を照らす朝光は少女を目覚めさせた。
赤く、長い髪をかき上げ、ベッドから体を起こす。
まだ眠りから覚めていない体を起こすため、フラフラとした足取りでも顔洗いに部屋から出る。
「おや、ジャスティ−ン。おはよう」
「おはよう、おばさん」
水場は共同に使用しているため、このあたりに住んでいる者が何人か来ている。
洗濯やら、食事の準備やら、やっていることは様々だが、朝から誰もが働いていた。
裕福とはいえない、むしろ貧しい暮らしだが、それでも楽しそうに暮らしている。
ジャスティ−ンはこの街が好きだった。
小さい頃から両親と暮らしてきた街。一時出て行ったが、そんなジャスティーンでも迎えてくれたあたたかい人々。



  そう、あたしはここでずっと暮らしていくんだ。



バシャバシャと顔を洗う。
が、水をくんだ手の指に見えるのは  一つの指輪。
宝石があったと思われる部分は光を無くし、ただの石と化しているが。
震える指でそっと触れば、造作もなく簡単に抜けてしまう。
「ジャスティーン?どうしたの?」
はっと気が付くと、同じ店で働いている少女がジャスティーンの横に立っていた。
「あ、ティナ。おはよう…」
「おはよう…ねぇ、その指輪。いっつもしてるけど、宝石が入ってないのはどうして?」
「え……」
無邪気に聞かれて、ビクッとした。
それでもティナはジャスティーンの指輪を眺める。
「指輪ってさ、私もっていないからよく分かんないけど…ここに宝石があるんだよね」
人差し指を当て、石をつつく。
ズキン  そんな音が心に突き刺さっていく。
イワナイデ、と。泣き叫んでいるようで…けれど、言葉にできなくて。
「どうしてこんな石なの?」



チガウ。違うんだ。
これは    



「これは……宝石よ」
「でも宝石って光ってるんでしょう?これはただの石じゃない」



それでも、これは宝石なの。
世界に一つしかない、尊い命……



不意に、涙がこぼれた。
「っ……」
「…ジャスティーン?」
怪訝そうに見つめるティナのことも、辺りでジャスティーンの様子を不思議そうに見ている人たちも、ジャスティーンにとってはどうでもよかった。

「忘…れな、いと……」

何度も、何度も口にした言葉。

「あたしは…ここで、生きて、いくの」

魔術師なんかじゃない。普通の、幸せを求めて。
もう、人生を狂わされるのはごめんだ。

「こんなもの……っ!!」






イラナイ。






けれど  

抜くことができない。
抜けるのに、抜けない。
指先まで動くのに…そこから動けない。



「なん、で…?」



どうしてぬけないのだろう。

どうしてここにいるのだろう。

どうして彼はいないのだろう。






「なんで    ?」






答えてくれる人はいない。
返ってくるのは虚しさと悲しさ。

そして。

なにもできなかった自分への苛立ちと。

何も言ってくれなかった彼への腹立たしさ。






最後まで彼は笑っていた。いつものように名前を呼んでくれた。
あやすように、優しく。
そのときになって、気が付いたのは。

愛しさ。









「ずるい……」






どんなに怒っても、泣いても、やっぱり許してしまうほど、愛していた。
あの笑顔があれば、どんなに辛くても、あの世界でやっていけると思っていた。
けれど。
彼はいない。
名前を呼んでも、怒って叫んでも。






指輪に語りかけても。






「ごめんなさい」



傷つける言葉しか言えなかった自分を。
迷惑しかかけれなかった自分を。
こんなにも彼を愛してしまった自分を。
許して、なんて言えないけれど。



せめて。

忘れさせて下さい。
アナタのことを。









「最後まで、あんたに苦しめられるのは嫌なの」









それぐらい、いいでしょう?



ポロポロ、雫が乾いた頬をつたり、指輪をぬらした。
朝日を浴びて、眩しく光る。

一瞬、紅く、染まった、気がした。












いつか、忘れるだろう。
そうしたら、この指輪をきっと捨てるのだろう。
だって、その時自分はもう、この指輪の価値を知らないのだから。



そのときまで     ……












「あんたは私のものなんだから」






Last song - - 最後の歌
アナタは聞いていましたか。