「人間は嫌いだ」






ああ。

今なら、きっと。

彼の言うことが分かる気がした。












カツン…、カツン…。
暗闇の中を自分の足音だけが響いて聞こえるのが妙に癪に障る。
手のひらに炎を生み出せば、想像していた通りの光景が目の前に広がった。
懐かしいはずの場所なのに居心地が悪く、苛立っている気を静めるためにその辺りに乱暴に座った。



彼女と出会う以前からすんでいた場所。

彼女と初めてであった場所。

彼女と毎晩話した場所。

彼女に指輪を渡した場所。



ふと、奥を見ればランプを片手に自分へと歩いてくる少女が見れるような気がしてしまうくらい。
声をかければビックリしながらも笑いかけてくれる少女を  






「レンドリア」






彼女だけ呼ぶことを許されたような、名前。
宝石の名前ではなく、彼の名前を呼んだ少女。
あの娘は必ず自分たちのことを名前で呼んだ。
宝玉としてではなく、一人の”人”として扱っていた。

自分だけじゃなく……他の宝玉たちも、というのが少し気にくわないが。
だが、それは彼女の欠点でもあり、美点でもあったのだろう。






「…ジャスティ−ン」






呼べばまた、振り向いてくれるだろうか。
怒ったような、笑ったような、あの表情を見せてくれるのだろうか。
けれど、俯いていた顔を上げてみても、望んだものはやはり見ることができない。
何処にいても分かるはずだった彼女の気も、探しても見つからない。
当たり前だ。
彼女はもういない。
彼女に渡したはずの指輪は、
自分の手のひらの中にあるじゃないか。

「…ったく……」

人間は本当に脆い。
愚かで、傲慢で、呆れるほどに。
確かに人の寿命は短く、彼らが死んでいくのを何度も見てきた。
あんなにうるさくて騙されやすく感情に振り回されていた少女も、天へ行ってしまえばそれで終わり。
交わされた契約もそれでおしまい。
残ったものは彼女の亡骸と、指輪と    言い表せない想い。



あのちっこいのは言っていた。
「もう絶対人間とは契約なんてしねぇっ!!」
瞳に涙をためながら、それでも流さないのは彼なりのプライドなのだろう。



狸もまた、言っていたっけ。
「やさしい子だからね……結局逃げ切られてしまったけれど」
最後の最後まであきらめなかったあいつは、ずっと笑っていた。



そして、彼もまた。
「だから……人間は嫌いだ…」
ひと言呟いて、冷たく悲しそうな風を残して消えた奴。






それぞれ、彼女に関わってしまったことを後悔したのだろうか。






だが。






「なぁ、ジャスティーン」






一番彼女を憎んだのは他でもない自分のはず。






今なら分かるのだ。

彼の言った言葉を。

愚かな、愚かな人間の浅ましさを。

分かろうとしているのだ。






「ホント、馬鹿だよ……」






何故他人の為に動くことができるのだろう。

俺のことだけを考えていろと言ったはずなのに。

先を考えてから動けと言っていたのに。






    だから嫌なんだ……人間は。






そして。






それ以上に、嫌いになったのは。






他でもない、自分自身。






側にいながら、なにもできなかった自分を。

破壊の力しか備えていない自分を。

無力だと思い知らされた自分を。



殺したいほど、嫌ったのは。



ああ、彼女がいなければ気が付かなかったこと。
憎まなくてすむのなら。
彼女を知らなければよかった。






だから、人間なんて嫌いなのだ。

否。

嫌わなければいけないのだ。






「馬鹿だよな……」



ジャスティーンに対しての言葉ではなく、彼自身に対しての言葉。



彼はずっと生きてきたのだから。









それが人との別れにおける、自分を傷つけないための唯一の方法だと知らずに。






|| 言い訳 ||

スミマセン…。レンドリア独白な感じになってしまいました。
これはあくまでも赤井の想像に過ぎませんのであまり突っ込まないでください。
ジャスティーンはどこかで死んでしまったという設定で書きました。
多分誰かを庇ったりしたのではないでしょうか…?
赤井のなかのレンとジャスはこんな感じです。
逆のヴァージョンは「Last Song」を読んで下さると分かるかも…。
死にネタ好きで申し訳ありません。






Apocalypse - - 黙示・この世の終わりの日
伝わっていたと、思っていたんだ。