この世に永遠なんてものは存在しない。

当たり前すぎて、気が付くことができなかった愚か者は誰?












嘗て昔は風の恩恵を受けた者たちの跡。
盛者必衰の理をあらわすというのはまさにこのことを意味しているよう。
その館が炎の王子によって燃やされていくのをジャスティーンは見つめていた。
自分の未来までもを捧げた少女の眠る、城を。
ユラユラと揺れる炎の影と共に、ただじっと見つめていた。






綺麗だと、ジャスティーンは思う。
一生消えることのない汚点を一族から、魔術師から付けられたとしても。
彼女の自己満足に過ぎず、宝玉の自由を奪った自分勝手な行為だとしても。
綺麗だった。
この一言に尽きる。

だからだろうか。

シャトーの一族が恐れていたことをやろうとしたのは。
あの時少女に対して嫌悪を感じていたならば、シャンレインを砕こうとする思考は生まれなかっただろう。
けれど。
ジャスティーンは彼女と共鳴してしまったのだ。
「宝玉」ではなくソールという人を愛した番人と。
今となっては彼女の身すら羨ましい。
少女は自分の身で愛する者を守ることができたというのに。
いざとなったとき、ジャスティーンはレンドリアの守りようも知らない。
できることといえば、彼の死を見守るか。
それとも、彼と共に行くか。



歯車は外れていく。
キリキリ、音を立てて。
人の手と、半ば狂った思いと共に。








「あたしが死んだら悲しい?」
不意に思ったことを口にすると、レンドリアはしかめっ面をした。
「なんでそんなこと聞くんだ?」
バルコニーの手すりに肘をついているジャスティーンの顔は後ろに立っているレンドリアからは窺えない。
質問をしたジャスティーンも顔を向けようとはせず、もしかしたら答えを期待していないかもしれなかった。
その姿は夜だからだろうか、儚げに見え、部屋着に着ている白い布と紅い髪が冷たい風に吹かれている。
月光の所為もあって彼女の肌は白く、いつでも闇に紛れてしまうかもしれないほどか細かった。
そっと近づいて肩を抱きしめる。
夜風に長いことあたっていたため、肌の温度は攫われてしまっていた。
けれど、レンドリアではジャスティーンに熱を分けてあげられるほど彼の体は温かくない。
それこそ夜風のように奪われていない熱まで奪ってしまいそうだが、風に攫われてしまうぐらいならばいっそ自分がもらうべきだろう。
口元を少し上げ、彼女の髪を梳いてやる。
「人はいつか必ず死ぬ。けれどジャスティーン、お前はまだ先だろう?」
「そんなの…分からないわ」
「俺が守っている限り死なねーよ」
「レンドリアが死なない保証なんて無いじゃないっ!!」
抱いていた肩が震え思わず手を離せば、ジャスティーンの瞳とかち合う。
蒼く、雫が溢れ出しそうな瞳。月を映しているソレはまるで水月のように神秘的だ。
その海原になら溺れてしまっても良いと思えるほど。
「今回は水の伯爵が仕組んだものだったけれど…いつか、本物ができるかもしれない」
だって自分は魔術を使えない。
レンドリアを弱らせることしかできないのだ。
「ねえ…あたしが死んだら悲しい?」
「ジャスティーン……?」
「悲しくない?レンドリアはもう慣れてるから受け入れられるのかしら、やっぱ」
「…お前はまだ死なない」
「答になってないわ」
「必要ないだろ…」
そして、紅い果実に口付けを落とした。
これ以上言葉を言わせないために、何度も。
「狡い……」
息をする合間に許した言葉はそれだけで。
彼が与えた言葉はただ一つだけ。






「     」









愛おしく思う少女がどうか傷付くことの無いように、と。
たとえ傷つけるモノが自分だとしても許せなかった。







彼女が死ぬ時は自分が死ぬ時、だなんて

思ってもいなかっただろう












ジャスティーンの掌の中に咲く一つの石。
……嗚呼。
よみがえる、あの光景が。
炎の中に眠る番人が、ジャスティーンを呼んでいる。



カラン。



完全に外れた、運命の歯車。
永遠に回ると思われていたモノでさえ、簡単に外れてしまう。
なんて、滑稽。









何よりも美しいその花を、つみ取ってしまおうか。






||言い訳||

く、暗いです…。ジャスが思いっきり暗いです。
原作とかけ離れてますね。ひー。
時間が交差してますが「幽霊屋敷と風の宝玉」から「ローティアスの天秤」までごっちゃです。
自分で書いてて分からなくなった部分もいくつか。
それ以前に、書きたかったことが全然書けていないところからしてどうしようもないです。
一度シャンレインネタはやってみたかったけれどこんなハズでは…。
描き直すか…新しいの書くか、どちらかしたいです。ハイ。






Utopia - - 理想郷
そこにはきっと、永遠もある。