八 ヶ 岳 最 南 部 ’95夏

 

 8/24〜26の3日間、八ヶ岳最南部の峰々へ行ってきました。コースは 観音平〜編笠山〜権現岳〜キレット〜権現岳〜三ツ頭〜観音平、でした。本当 は赤岳まで行く予定でしたが、キレット小屋が閉鎖されていたため、時間的に (&体力的に?)無理が生じてあきらめました。

八ヶ岳の主峰、阿弥陀岳と赤岳

1.編笠山

 八ヶ岳の写真を始めて見たとき、妙に印象的だったのが編笠山でした。あの こんもりとした丸い山姿は、阿蘇山の「米塚」に似ていると思いました。それ 以来、いつかは登ってみたい峰のひとつでした。観音平からは、ほとんど容赦のない直登ルート。頂上手前まで樹林帯が続く のがせめてもの救いですが、やはり南面ということもあって、大変暑かったの です。途中、雲から頭を出した富士山が見えました。岩がゴロゴロところがって樹木の無い所まで来ると、もう山頂は間近です。

 この感じは蓼科山に似ています。どちらも同じような成り立ちなのかもしれま せん。そして山頂は360度の視野です。しかし夏の晴れた午後とあって遠望は無し。八ヶ岳連峰から蓼科山、霧ヶ峰 方面は見えるのですが、南アルプスなどは見えず。茅ヶ岳と、何故か富士山の 頭は見えています。条件次第では中央・北アルプスも見えるはずですが。 この頂上は適度に広く、視野を遮るものもなく、気持ちの良い場所でした。足元にはスウッと裾野が伸び広がっています。観音平から3時間半程で、この 展望地に到達できます。

端正な山容の編笠山を望む

2.青年小屋

 編笠山を反対側へ15分程下ると、権現岳との鞍部に着きます。青年小屋が 建っています。「遠い飲み屋」という赤ちょうちんがぶら下がっているのが妙 ですが、雰囲気の良い所です。編笠山と権現岳にはさまれて、視野は狭いので すが、南東方向にちょうど富士山がのぞきます。目前の権現岳は、ここから見ると「ギボシ」という峰がとんがって左手に、 奇妙な岩が重なる本峰が右手に見えます。本峰のすぐ左下に、青い屋根の権現 小屋があります(翌日その小屋に泊まろうとは・・・)。この日の青年小屋の宿泊者は我々2人のみ。250人収容というこの小屋に かえって寂しくもありました。しかし大いにくつろぎました。翌日は2団体の 予約があったようなので、1日違いで静かに過ごせました。

 翌朝目覚めると大変良い天気で、部屋の窓から富士山が見えています。雲海 にそびえる富士。あわててカメラを手にして外へ出、写真を撮りました。その あとトイレへ行ってびっくり。ちょうどその小窓から、槍・穂高連峰が見える ではありませんか!これが、この日の大展望の序曲になろうとは。本当に、ゆっくりくつろいでいる場合では無かったのです。

青年小屋から見た雲海に浮かぶ富士
まるで絵に描いたようだ

3.乙女の水

 青年小屋から西へ5分程で「乙女の水」という水場があります。雨が少ない ために小屋の水は使用できず、この水場の水が頼りです。まさか、この山行中 唯一の水補給ポイントになろうとは・・・。水のありがたさを再認識した山行でもありました。

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4.素晴らしい展望

 8/25日の朝、雲海に浮かぶ富士山を望んだとき、そこそこの展望は期待 していました。しかし、青年小屋から権現岳に向かって登り始め、少しづつ視 野が広がるにつれ、この日の視界が並ではないことに気付きました。西側に連なる御嶽・乗鞍岳から北アルプス連峰がはっきりと確認できます。 あせりました。編笠山に隠されている南アルプスが、どんなに見えることか。 標高を上げるにつれ、予想通り、南ア北部の巨峰群が見え始めました。まず、鳳凰三山と北岳が。そして甲斐駒ヶ岳と仙丈岳が、あまりにも大きく しかも少しも霞むことなく、くっきりと現れました。思わず茫然。盟主北岳が 両脇に重臣を配するように、あまりにも堂々たる姿でした。登り道で何度も後ろを振り返りながら、その姿を堪能したのです。

 

日本第2の高峰、南アルプス北岳
すっきりと、かつ堂々たる雄姿

水のCMでおなじみの甲斐駒ヶ岳(左)
右にボリューム感のある仙丈岳


 中央・北アルプスは横から見られ、西側のスカイラインをほとんど占めてい ます。御嶽と乗鞍岳の大きな(そして対称的な)山体がその間をつないでいま す。これらも低い雲海の上に浮かんでいます。東には富士山はもちろん、茅ヶ岳・金峰山などの山々が見られます。しかし 私の無知のため、山の名を特定できないのが残念です。権現岳本峰とギボシという峰の鞍部にたどりつくと、あまりにも巨大な赤岳 と阿弥陀岳が、でんと構えていました。その向こうには、横岳と硫黄岳のそれ ぞれ個性的な姿があります。蓼科山や霧ヶ峰などもよく見えます。背後の眼下 には、編笠山の丸い姿があります。

写真では見にくいが、北アルプス穂高〜槍の連峰
この左方向には御岳と乗鞍岳も見えた

中央アルプスの全貌を横から眺められる


 とてもすべてを言い尽くせませんが、あまりにも素晴らしい展望でした!

 

5.権現岳

 こうした展望は、権現岳からの展望と考えていいのです。特に、南ア北部の 展望は、芸術的と言いましょうか。編笠山は視界を遮る存在ではありません。権現岳は、奇怪な岩の重なる本峰と、ギボシ・西ギボシという峰から成りま す。もし、中央・北アルプスなど西側の展望を得たいのであれば、ギボシ山頂 が良いでしょう。縦走路から少し外れますが、石像の置かれた雰囲気の良い所 です。東側を望むなら、本峰の手前にある分岐点にちょっとした高台がありま す。ご来光もそこから見ることができました。

権現岳から見た富士山


6.権現小屋

 この日、予定していたキレット小屋が閉鎖されていたため、権現小屋に泊ま ることになるのです。権現岳の南斜面にへばりつくように建つ小さな小屋なの ですが、その窓からは、南アの絶景が見られます。  宿泊客は我々を含め5人。ここでもゆったりと過ごすことができました。

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7.尾根道の縦走

 権現岳から北へ向かう縦走路は、旭岳などのいくつかのピークを越えながら 進む、尾根沿いの道です。キレットまで、ときおり樹林帯に入りながら、その 多くは空中を歩いているような、開放的な雰囲気で歩けました。近付くにつれ威圧感の増してくる赤岳と阿弥陀岳。赤岳の右斜面に突き出た 大天狗・小天狗の異様。特異と言って良いこの山岳風景を見るにつけ、今自分 が八ヶ岳の真っ只中にあることを感じます。  途中の小ピークの斜面には、コマクサが群生していました。

 
赤岳から権現岳の縦走途中にある
やや有名な鉄ハシゴを上から見る
離れたところから見るとこんな感じ
ちょっと怖い

8.キレット

 キレットというのは外来語だと思っていたのですが、「切戸」という漢字をあてる日本語のようですね。八ヶ岳でキレットと言えば赤岳南部のそれでしょう。その最低地点に建つの が、その名もキレット小屋。ここにもコマクサが群生し、しかもシロコマクサ まで見られました。ちなみに小屋は閉鎖中で、お盆の頃のみ営業のようです。 期待した水場も枯渇していました。ここから見上げる赤岳は、まさに天を突くようでした。

 

高山植物の女王、コマクサの群落

キレット付近から赤岳を見上げる


9.赤岳登頂せず

 予定では赤岳へ登り、キレット小屋に泊まるつもりだったのですが、閉鎖中 とあっては仕方ありません。権現小屋まで戻ることを前提に、登頂はあきらめ ました(登頂が目的ではないと言い聞かせ・・・)。しかし、赤岳の雰囲気だ けでも味わおうと、1/3くらいのところまで登ってみました。太陽が容赦なく照りつける南面の岩肌。しかも著しい急勾配。簡単に登らせ てもらえるほど、八ヶ岳の主峰は甘くありませんでした。(昨年は北側から登頂しましたが、ガスで無展望でした・・・)

八ヶ岳の主峰、赤岳へ向かう人の列

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10.三ツ頭

 権現岳から南東に伸びる尾根。その途中にあるピークが三ツ頭です。我々は その峰を経由するルートで下山しました。三ツ頭はなかなかの好展望地で、鋭利な峰をもたげる目前の権現岳、その右 手には阿弥陀岳と赤岳、左手には編笠山が大きく見えます。南アルプス北部の 峰々も、手前に邪魔するものが無いためか、予想以上に近く見えます。三ツ頭から道は2つに分岐。そのまま南東に向かう道と、真南に向かう道が ありますが、観音平へ戻るには後者をとります。三ツ頭を過ぎると樹林帯に入 り、クマザサなどの茂る道を下っていきます。途中、マツムシソウやキリンソウ(?)の群生地もありました。

三ツ頭へ向かう途中、権現岳を振り返る

 

11.ヘリポート

 木戸口公園と称される地点を越えて少し下ると、突然ヘリポートが出現しま す。目的はわかりませんが、Hマークのある開けた場所です。当然展望も良く 南アルプスを眺めるためにあるような場所でした。案の定一人の男性が、カメラと双眼鏡を手にしていらっしゃいました。もしやFYAMAPerかとも思いましたが・・・。北岳に間ノ岳が重なって見え、その左に農鳥岳が見えます。農鳥本峰と西農 鳥岳の中間に、ちょこんと飛び出たピークが確認できます。もしや悪沢岳かと いう説も飛びましたが、どうも見えるとは考えにくい。どうやら農鳥稜線上の 小ピークのようです。真実はいかに。

12.延命水

 どんどん高度を下げ、観音平への分岐より手前に「延命水」への分岐が現れ ます。しかし分岐標識には無情にも「水ナシ イクナ」と書かれていました。 まさかこんなに下方で、木々の茂るところにすら水が無いなんて!八ヶ岳の水 不足を実感しました。お土産に持って帰るつもりでしたが、あきらめざるを得 ませんでした。残念。

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13.八ヶ岳雑感

 良好な天気と展望に恵まれ、3日間の山行を無事終えることができました。中部山岳の展望台とは良く言ったもので、多くの著名な峰々を飽きるほど望む ことができますね。 白山が見えるのではないかと西側を凝らして見ましたが、それらしき山を見付けることはできませんでした。東側の山については、私自身に知識を身につ けることが先決のようです。八ヶ岳を形成する各々の峰も、いずれも個性的で独特の様相です。どうして ひとつの山塊に、あのように異なった峰々が存在するのか、不思議でもあり、 また面白いと思います。八ヶ岳自体を眺めるのもいいものですね。 あとは、水に困らなければ最高でした。

 八ヶ岳に特別強い思い入れがあるわけではありませんが、のんびりと山上の余暇を楽しむのに最適なフィールドだと感じています。だからきっと、いつか また訪れることがあるでしょう。いまだ未踏の阿弥陀岳や、麦草峠以北の山域にも行ってみたいですね。

(終わり)

(1995.8.27〜30 FYAMAPに掲載)

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