何も知らない
戦争も知らない、テロも知らない、飢えも知らない、暴力も知らない
本当の悲しみさえ知らない。
そんな男に、障害の子供が生まれた

あのころのことを、思い出している。
自閉症って何。
本屋で本を買いあさった。
治らない。
問題行動
大きくなったら
いてもたってもいられない。
叫びたいけど声が出ない。
どんな慰めの言葉も耳に入らない。
他人が羨ましく思えた。
なぜ
どうして
本を読んでくうちに胸が締め付けられていく。
泣きたいけど涙が出ない。
苦しい。
朝起きても、仕事に行っても、寝ている時でさえも、頭から離れない。
辛い気持ちを、妻にあたる。
息子との夢が崩れていった。
あきらめの悪い俺は、なかなか信じきれない。
まさか。
いつか良くなるのでは。
だから、行動がおかしくなってくると余計につらい。
やっぱり

今、数年過ぎた。
息子の障害ははっきりしてきた。
自分の気持ちも、ほんの少しだけ落ち着いてきた。
泣きたくなることばっかりだけど、その中にほんの少しだけ
笑える息子を見ることができる。
息子のおかげで喜怒哀楽を感じさせてもらった。

俺は何も知らないんだなと感じる
この子の人生も。

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