ピ エ ロ


誰かが息子を見ている。





息子は助手席に座っていた。
俺は濃いスモークガラスの貼ってある後ろの席にいた。


前から、50から60歳くらいのご夫婦がやってきた。
とても気品があって、憧れてしまうような夫婦であった。

息子が助手席で、カーラジオを聞きながらピョンピョン跳んでいた。
そのご夫婦の奥さんが息子をしばらく見ていた。
後ろの席から見ている俺の事は気づいていないようだ。


今でも頭から離れない。

あの奥さんの息子を見る目。
人間を見ている目でない。  何かエタイの知れないものを見ているような目だ。

目から伝わってきた。

何 あのコ。




しばらくすると、女子高生が車の中でピョンピョンしている息子を見ていた。
でもどこかに行ってしまった。

二分くらいたったら戻ってきた。

友達を2人連れてきた。
三人で息子の行動を観察しながら笑っていた。

世間を見た。





その様子をバックシートに乗っていた俺はずっと見ていた。

外に出て息子の障害を説明してやればよかったのかな。

外に出て笑っていればよかったのかな。  まるでピエロのように

そうピエロを演じていればよかったのか



どんなに大きな風船にも限界がある。
そうだ破裂するのだ。





いつか、俺にも限界がきて



俺の右ストレートが 



トップへ
トップへ
戻る
戻る