真っ白な部屋にある一つのベッドの中で、一人の少女が目を開けた。



「ココ、は……?」

冷たくもなく、あたたかくもない。単調な空間に今自分はいる。
爪先や指先の感覚が次第に戻ってくる。
ゆっくりと手を握り、開いてみた。
「動く…」
当たり前のことだが、目に見える手足が動かすまで他人のモノのように感じられるからだ。

  ココは…何処だろう)
記憶が曖昧で、宙を浮いているみたいにフワフワする。
「私、の…名前……」
  ら、いむ。うん、来夢だった。
口に出すことで、線が結ばれていく。
過去から現在へ。色を取り戻していく。

白・黒・青・緑・黄・赤    赤?

赤赤赤赤赤赤赤アカ赤あカアカアカ紅アぁああアアアぁアアアアアアアアアアアア      



「あ゛ぁぁあ゛ぁっっ!!」

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。






    死んだの?



ドクン。



    殺したの?



ドクン。






    『来夢姉様?』






赤い。全てが赤い。私の体  赤い。真っ赤。



「あ…あ、あか…い」



これは血。ドロドロした血。身にまとった血の色。



「や…だ…」
手を引っ掻いた。何度も、何度も。
ガリ。
とろとろ流れ出す液体。つんとする鉄の匂いに少し安心する。
真っ白な服の袖に染みをつくる。
ガリ。ガリ。
指先まで辿り着いたら、今度は床に泉を作り始めた。
でも、まだ足りない。赤くない。こんな赤じゃ、ナイ。

もっと、もっと赤く、しないと。私じゃない。



これは、ニセモノ  だ。



「あ  ……」
ふと、横を見ると、机の上に果物ナイフが置いてある。
ふるえた体を揺らしながら、ゆっくりとナイフを手に取った。



ドクン。



先を手首に当てる。



ドクン。





少し上へ戻して    そのまま真っ直ぐ下ろした。