ねえ、知ってる?

この空の上には天人がいて

いつも詩を詩っているんだよ…

何処までも澄み渡る

あの

綺麗な音色で









天使たちの詩〜テンシタチノウタ









リーン……
空気と空気が擦れたかのように、音なのか、それとも別の何かなのか分からないが聞こえた。

オチテイル?

自分でも分からないほど時の流れはゆっくりで、素肌さえ何も感じない。
否、反対に早すぎるのだろうか。
どちらにしろ彼にとってはどちらでも良かった。
何処に向かっているのか、なんて自分で言うのも寂しいが、考えるだけの脳は初めから持っていなかったし、別に気にすること無かった。どうせ当てなんて無いのだから。
何処にいこうと、どうかなろうと、その時になればなんとかなるものだろう。
どうせ死なない体なのだから。






天界では天人も空を飛べる。
今自分はそれを証明しているのだろうか。
いや、違う。
ただいま宙を舞っている(?)少年はなるべく冷静に考えようとした。
が、



ゴツ。




気分は天に昇ったぐらいのものだった。
それはもう、涙が出るくらい。



    痛いんだよ!!



記憶はそこまでだった。









此処、天人たちの住む世界”天中”では、沢山の天人でにぎわている。
中でも”王都”と呼ばれる巨大な都市では天界の下都、天中の中心部で、年中活発だ。
そもそも天人というのは、下界のこと人間界で死した者の中で、死後もなお優れた力を持っていた者が再び「天人」と名乗り、地球という星で過ごすことができる者のことを指す。
その天人の中でも、”ジブンダケノウタ”を与えられた者は「天使」    永遠に生きる力を授けられる者となれる。
天人といえどやはり寿命はある。ただ人間界よりそれが長いだけで。
必ず死は避けて通れるものではないのだ。
定めなのだから、どうしようとやってくる。

まあ、少しでも長く生きられたのだから別に

ほとんどの者がそう答えるだろう。
しかし
中には欲が出てくる者だっている。
いくら天人だろうと、清い心を持っていようと、所詮は人間なのだから。






詩が欲しかった。
誰かのものではなく
自分一人だけに与えられた詩。
どうして…と聞かれるとこたえられないのだが、欲しかったのだ。






「ねえ、生きてる〜?」
そっと頬から伝わる柔らかい温もり。
「死んではいないと思うけど…意識ありますか〜?」
アル。
と言いたいところだが、声が上手く出ない。
かろうじて口だけは動かせたが、金魚のようにパクパクしているだけというのはとても格好悪い。
「あは、お魚さんみたいv」
「……」
喜んでいいのか…複雑だ。
「意識は有るようですね〜。よかったよかった」
「……」
心配して(?)もらって申し訳ないと思うのが普通だと思うが、なんか感謝できない部分がある。
「ねー冗談してるんだったらなにか一言ぐらいしゃべってくださいよ〜」
「…しゃべりたくても……しゃべれ…ないん…だ、よ…」
これじゃあ今から死にます、というようなシチュエーションじゃないか。
ホント、事切れそう。
「そんな…無理して演技しなくてもいいのに…ちゃんと分かってますから」
何処が分かってるんだ!!と怒鳴りたいが声に現れず。
この子(といっても目が開けられなくて分からないが)はどうやら重傷だ。
もちろん自分の方がよっぽど重傷なんだけれども。
「だから…冗談なん、かじゃな…いって…ば……」
「ふえ?」
もう限界。
今まで経験した中で一番綺麗にブラックアウトしたと思う      



「ありゃ…もしもし〜、返事してくださいよ〜」
反応なし。
綺麗にいっちゃってる。
「冗談じゃなかったんだ…ホントに」
おいたがすぎたかな…と反省しつつ、ひょいっと片手でその身体を浮かせると、彼女の後ろに広がっていた屋敷に運び込んでいった。