一つの籠に サンドウィッチ詰めて

紅茶に砂糖 ミルクを混ぜて

若草茂る 小さな丘に

あなたと二人 並んで座る

日差し浴びる 午後の日曜

甘く優しい 花と蜜蜂

ゆっくり流れるこのひとときを

風と共に 歌いましょう

……  ……






誰だろう、歌っているのは…
この声は…









「あ、お気づきになられましたか?」
目を開けば光が入ってくるはずなのに、いや、入ってはきたが、それ以上のものは望んでいないのが、ある。
しかもそれが少女(天人だと思うが)の顔…。
見た所歳としては16、7といったところか。自分と同じぐらいの年齢だろう。といっても自分自身年齢を知らないので、周りの意見としてだが。
ところ幼さが残ってはいるが、こんなもんだろう、と一人で納得してしまう。
「あ……えーと、顔を上げてもらえないでしょうか」
一番最初に言う言葉じゃないな。
まあ、慣れてないといったらおしまいになるんだけど。
「え…ああ、ごめんなさい。お体の方は大丈夫でしょうか?」
「まあ、なんとか。死なない身体ですし」
天人というものは刺されようが焼かれようが首の骨折れようが死ぬことはない。あるとすれば寿命だけ。個人差はあるがだいたい100年以上は誰でも生きられるだろう。
それに人間のように姿形が自然に変わるという変化は無いので、整形などしないかぎりその人物の能力が最大限に引き出せた年齢の姿で過ごすことになる。
「やはり天人さんでしたか。でしたら手当はしなくても大丈夫ですよね」
「ああ…って、この世界じゃ天人か天使ぐらいしかいねえだろ!?」
「ま、そうなんですけど…ね」
意味ありげな笑みを見せる。
「…他になんかいたか?」
「知りたいですか?」
「いいや」
即答。
「なんでそういうこと言うんですかー!?」
「別にいいだろーが!俺には関係ないね、誰が住んでようと……人間がいたら厄介かもしれんが」
「あら、もしかして私が言いたかったことって人間がこの世界に入ってきた…っていうことかもしれませんよ?」
にこっと笑みをつくる。
「冗談だよな」
「さあ、どうでしょうね」
笑みを絶やさないところがかえって怖い。
「どうなんだろうな」
「あははー、頑張って答え見つけてください」
そもそも答えなんてあるのだろうか。
不振な目線を送るが笑っているだけでこたえてくれない。
「…名前」
「ふぇ?」
どんな言葉だ…ふぇって。
聞くタイミングが悪かっただろうか。
「聞いてなかったからな、お前の名前」
「もしかして…私の名前を尋ねているのですか?」
他に何があるというんだ。
調子が合わない…。
「名が無いとかだったら別だが」
「いいえ。ありますよちゃんと。でも、普通聞くときは名乗ってから聞くもんですよ」
「あ、ああ……俺は五月」
「五月さん…ですか。私は清音と申します」
きよね……?
「?どうかなされましたか?」
「…いいや」
自分が覚えているわけがない。
そう自分に言い聞かせる。
「なんでもないんだ。とにかく…ありがとな、世話かけて」
「いいえ、私もいつもは一人でしたから。久しぶりに誰かとお話しできて楽しかったです」
「…一人で此処に住んでいるのか?」
「はい。この辺りは私しか住んでいないと思います」
自分と歳のそう変わらない少女が人気のない場所で暮らしている。
そう思うと、胸の奥がズキっとした。
「寂しく…ないのか?」
ふいに口に出してしまった言葉。
「さあ…そんなの……慣れてしまいましたからね」
「そんなもの…か…?」
「クス…どうして五月さんがそんな悲しそうな顔するんですか」
自分でも分からない。
「いや…別に。それよりも」
話を変えよう。
「なんでしょう?」
「ここは天中の中のどこの部分なんだ?」
そういや自分が一体どこに落ちたのか知らなかった。
「はあ……そういえば…どうしてあなたは庭に寝ていたというか…気を失っていたのでしょうか?」
「それは…実は俺旅してて、鳥便に乗っていたんだけどあいにく竜巻に巻き込まれて吹っ飛ばされたわけ。で、落ちた先が清音の家の庭というわけ」
実際どうなっていたのかあいまいなのだが多分こんな感じになっていたんだろう。
「鳥便…ですか。道理で」
「?なにが?」
急に真面目な面をしてもらってもかえって困る。
「大変言いにくいのですが…ここは天中ではありません」
「ええ!?」
思わず裏声が出てしまう。
ここが天中ではなかったら…残るはもしかして      
「お気づきだと思いますが…ここは中界です」