我が道を行く自称淑女のこと、ダリィはとても気分がよかった。
というのも、その理由は彼女の手の中にある冠  リルファーレである。
鏡の前で自分の頭にのせてみては
(ああっ、なんて似合うのでしょう!まるで私のために在るようですわっ!!)
と、勝手に想像し、至福の笑みを浮かべていた。
少し気に入らないのは宝玉の本人、リディオスがダリィの前に姿を現してくれないことだがまぁいい。
宝玉の近くにしか行くことができないのだから、そのうち出てくるだろう。
そんな浮かれた彼女の機嫌を一気に損ねたのは、不本意だが親友、ということにしているジャスティ−ンだった。
もちろん一方的であってジャスティーンはどう思っているが知らないが。









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「なんなのです、ジャスティーン!いくら親友の中といえど部屋にはいるときはノックをするものですわ」
「したわよ、何回も。気づかなかったのはダリィじゃない……その親友ごっこまだ続いていたわけ?」
「まぁ、ノックというものは聞こえなければ意味がないのです。言い訳は見苦しいですわ!それにごっこではありません、歴とした親友だと言いましたでしょう。そう、全てはレヴィローズのため!手に入れるためならば私、どんな苦労も乗り越えてみせます!!」
言い訳をしているのはあんたでしょう…。そう言いたいのをぐっとジャスティーンはこらえた。
親友に関しても、目的のために友だち付き合いをするのは親友とは言えないのだが、どうせ何を言ってもダリィに通じはしないことはよく分かっているので、ダリィの演説が途切れるまで聞くことにした。
(まずこの性格をどうにかしないと宝玉もよってこないということが何で分からないのかしら)
レンドリアにしても、スノゥにしても、ダリィが現れると皆消えようとする。
例外にソール(兄)は逃げようとはしないが、あれは単に大人しい性格であってダりィのことは何とも思っていないのだろう。
それを見てどうして自分に問題があると思わないのだろうか。
いや、思ったらそれで怖いものがあるが。
だからといってダリィにそのことを言う気は無いし、言ったところで自己解釈され間違った方向へ進むことは火を見るよりも明らかである。
ジャスティーンの言うことを素直に聞くわけがないし、かといってシャトーが言うわけがない。
どういう風に教育されてきたのか。
ある意味、一度彼女の母親に会ってみたいものだとジャスティーンは思った。



「って、聞いているのですか!」
「あー、はいはい。分かったから、ちゃんと今度から聞こえるようにノックをするわ。だから私の話を聞いてくれない?」
「むっ、その反応はなんです。それにノックの話ではなく私がいかにレヴィローズのことを    っ」
「いいから、その話は後でレンドリアに直接話して。そんなことよりも  リディオスよ」
「そんな事とは何です!……リルファーレがどうかしたのですか?」
「リディオスってダリィの所にあるよね…?」
「ええ、もちろんです。未来の主として責任持って保管してありますわ」
未来の主……その言葉にジャスティーンは一瞬目眩がしたが、なんとか持ち直す。
流石と言っていいほどの自信はどこから湧いてくるのだろうか。
「そ、そう。……で、何処にあるの?」
「鏡の前ですわ」
置いてある冠を取ると、ジャスティーンの前でかぶってみせた。
「どうです!私ほど似合う者はおりません。ああ、何て綺麗なのでしょう!」
そしてまたうっとりと自分の姿に見惚れている。
(重傷だわ…これは)
鏡の前に置いてあったということは、多分さっきもこうして一人で幸せにひたっていたのであろう。
そのせいでジャスティーンのノックの音に気が付かなかったのも頷ける。
ドレスも妙に凝ったモノを着ている…と思えば、冠に合わせてデザインされたモノだった。
遠くから見れば彼女の姿はどこかの王女に見える。
(きっとあのドレスもリディオスと契約を交わしたときに着る服とか言うんでしょうね……)
昔、ダリィがレンドリアとの契約のために拵えたドレスをジャスティーンが着てしまったという苦い思い出がある。
あれはちゃんとダリィに返したが、どうなったかは知らない。



「とにかく…リディオスは盗まれていないということね……」
それさえ分かればジャスティーンはよかったのに…ここまで辿り着くのに大量の精神力を消費してしまった。
何の解決にもつながらなかったが、リディオスが無事ならばひとまず安心できる。
後は部屋に帰って落ち着いて考えよう、と決めたところ。
「盗まれる…とは、どういうことです?あなた、まさかまたあの魔女が現れたのですか!?」
なかなか逃がしてくれないダリィである。
「えーと……そうじゃなくて……あ、でもその可能性もあるかもしれないけれど  多分違うわ」
「……?では、何なのです?」
挙動不審なジャスティーンを怪しんだ目でダリィは見た。
ジャスティーンは思わずうっとつまる。
「その…ね。あたしの部屋に………泥棒が入ったみたいで  荒らされたというか…」
「泥棒!!?この城に?」









ああ、神様。何故あたしをそっとしておいてくれないのだろう。









天上を仰いで大きくため息をついた後、自分の部屋に起きた出来事をダリィに話し出した。