「なんとまぁ、間抜けなことですわ…」
「あ、あたしが悪いんじゃないわよ」
「しかし、自分の部屋ぐらいきちんと管理すべきです。なぜ侵入者が分からなかったのですか」



嫌々ダリィに話をしたところ、こうも呆れられてはやはりカチンとくるものがある。
ジャスティーンだって好きでそうなったわけではないのだ。
「だいだい、ダリィもこの城にいたくせに気づいていなかったんでしょう?あたしに分かるはずがないわ。それにシャトーだって気づかなかったくらいだし」
敏感な彼女でもが気づかなかった。
ということは、相手は相当の魔術師なのだろう。
だが、ダリィは
「何故そこにシャトールレイが出てくるのです?」
全く見当違いの所を指摘していた。
「え…だって、それははじめにシャトーに相談したから……」
「なっ!この親友の私を差し置いて……見損ないましたわ、ジャスティーン!!」
(どうしてあんたに見損なわれないといけないのよ)
いい加減、その親友設定をどうにかしてくれと思う。
いや、そうではなくて。
「だから、話を脱線させないで。肝心なのは相手がよっぽど凄い魔術師だということじゃないの?」
「まぁ、そうとも言えなくはないですが……」
「叔母様は留守だし……どうして叔母様のいないときに厄介ごとが起こるのかしら」
それほどヴィラーネの存在は大きいということなのだけれど。
ヴィラーネにしても、よく城を留守にいているが一体何をやっているのかジャスティーンには考えもつかない。
「とにかく、シャトーの所へ行きましょう」
ダリィに話してしまった以上、彼女の所へ行くしかない。
結局はこういうパターンで終わるのだということをジャスティーンは何度も体験してきたというのに、どうして同じことを繰り返すのだろう……自分を呪いたかった。
「あ、冠は持ってきて」
「当たり前ですわ。そんなこと言われなくても」
なにせ未来の主なのですから。
「そうじゃなくって…、別にいいけど……」
やっぱり人の話を聞いてない。
ジャスティーンは脱力し、有りっ丈の息を肺から吐き出した。



そんな時に、



「良くはないぞ、ジャスティーン!」
何処から聞こえてくる声だろうかと思えば  いつの間にか横に立っている金色の人形のような少女。
「リディオス!?」
ダリィのもっている冠の主、リディオスが不機嫌そうな表情でジャスティーンを見ていた。
「おぬしが主ならともかく、この娘が主など……わしは二股でもよいと言っておるに」
「い、いや…だからね……」
今はそんな話をしたいわけではないというのに。
リディオスも出てきたというのならダリィとの会話を聞いているはずであろうに、どうしてこんな時に出てくるのか。
ダリィもダリィで。
「なぜそんなことを言うのです。将来有望、そして若く美しい私ならピッタリではありませんか!」
「わしの好みはジャスティーンじゃ」
「私の何処がジャスティーンに劣っているというのです!」
「いやな、劣る、優るということではなく……」
「ではどういうことですか。こんなにもこの冠が似合う女性はいないと申しましたでしょう!」
「わしはジャスティーンにしてもらいたいと言っておるのに…つれないのぉ」
「ならば私をつってくださればよろしいではありませんか!」
ああだこうだと会話が続く。
(どうして出てこなくていい時に出てくるのよ…)
どうしてか宝玉に良い意味でも悪い意味でも好かれるジャスティーン。
だが、できることならダリィに代わってあげたいと半ば冗談に思う。
とにかく平穏に暮らしたいと望むだけだというのに。
部屋荒らしにしても、宝玉と関わったせいでなったのかもしれないのだ。
確かにリディオスを連れてきたのはジャスティーンだし、リルファーレを狙っている魔術師がいるということも分かっていた。
それなのに自分から首を突っ込んでいるということも理解している。
けれど  そうだけれども。
「あたし…先に行ってるわ……」
酷く頭痛がするのは気のせいではない、はず。
遠くで
「お待ちなさい、ジャスティ−ン!」
「ジャスティーン、見捨てて行くな!」
「あ、消えないでくださいな。まだお話が……!」
などとされているが、知ったことではない。
リディオスの悲鳴が聞こえたような気がしたが、ジャスティーンは振り返らなかった。
哀れに思うどころか、
(このままダリィの相手をしていてもらうしかないわね)
と、軽い足取りで進んでいく。
一応ダリィの手元にあるというならば大丈夫だろう。
心配した自分が馬鹿みたいだ。
それよりも自分の部屋を荒らした犯人を見つけることに集中しようと思う。
それにリディオスを囮に使ってもいいのではないかと、結構薄情なことを考えていたことは彼女しか知らない。