中央アルプスを行く 1996年夏 (その1)

 

 今年のアルプスは、大滝山〜蝶ヶ岳へ行くつもりでした。しかしいろんな折り合いで、中央アルプスの中央部を縦走することになりました。昨年の三ノ沢岳に続き今年も中アです。はるばる広島からの友人と合流し、駒ヶ根へ向かったのであります。

1.千畳敷へ

 駒ヶ根までは中央自動車道を走ります。ところがIC出口は渋滞していました。夏休みの日曜とはいえ、もう正午前。いくらなんでも、この混雑はおかしいぞと思っていたら、案の定「ジャズフェスティバル」の渋滞でした。おかげで30分のロス。菅の台の駐車場に着くと、クルマは多いものの空きはありました。バス乗り場も数人しかいません。結局余裕で座って乗車できました。しかし途中のバス停で徐々に人が増え、助手席を使って座る人が出ましたけれど、立って乗る人がいないのだから、少ないと考えて良いでしょう。

 いかにも山行の格好をした人間は我々二人だけ。果たして、皆さんこの時間から観光に行くのでしょうか。昨年の崩壊地点も通行可能となったようで、横目に例の昇り降りの階段を見ながら通過。やがて、しらび平に着きました。ロープウェイは50分の待ちでした。千畳敷に到着したのは2時過ぎ。こんなに楽して2600mまで登っていいのだろうかと思いながらも、目の前に広がる素晴らしいアルプス景観に大感激です。登山届を提出。今年は3人死亡しているから特に気をつけてと忠告を受けました。目の前にある神社に、無事を祈ってお参りします。まだ花々の咲くカール内を横切り、浄土乗越への登りに着きました。


<千畳敷カールから見る浄土乗越>

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2.浄土乗越へ

 千畳敷から上がるには、右手の浄土乗越へのルート、左手の極楽平へのルートがありますね。我々は宝剣岳直下の山荘に泊まるべく、右手のルートを行きました。軽装の観光の人を含め、まだ登っていく人が多いです。天候は上々ですが南アルプスは見えませんでした。ジグザグの坂道を一歩一歩ゆっくりと登ります。すると、同行の友人がいきなりバテてしまいました。彼は今年初めての本格山行。彼のペースに合わせながら、結局1時間近くかけて浄土乗越に到着しました。

 山荘はもう目の前です。左が宝剣山荘、右が天狗荘。今日の宿は天狗荘の方です。この山荘は、どうやら宝剣山荘の混雑期のみの営業のようです。明るくてきれいな山荘です。お盆は過ぎたというのに宿泊客は多く、5〜60人はいたでしょうか。でも8畳部屋に8人で寝ることができました。


<宝剣岳から見た宝剣山荘(手前)と天狗荘(奥)>

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3.宝剣岳のブロッケン

 天狗荘に着いて夕食まで時間があったので、カメラだけを持って宝剣岳へ向かいました。クサリ場を通過し岩を登っていくと、そこはもう山頂です。頂点は、人が1〜2人乗れるだけの岩の柱です。誰もいなかったので、そこへ登って腰掛けました。木曽駒ヶ岳や三ノ沢岳が見えますが、下からガスが湧いてきています。すぐに三ノ沢岳は隠れてしまいました。足下に見下ろす千畳敷も、ガスに見え隠れしています。するとどうでしょう。円形の虹が出現しました。

 「わー!ブロッケンや!!」と、誰もいない山頂で一人叫ぶ私(^^;

 右手でカメラを構え左手を上げると、虹の中の怪人も真似をします。そこで写真をパチリ。してやったりです。何枚も撮ってしまいました。実はブロッケンを見たのは初めてでした。宝剣岳の剣先で見られたなんて、あまりに素晴らしい演出に大感激です。しばらく後で登ってきた友人は、見ることができずに残念がっていました。


<宝剣岳山頂で表れたブロッケン>

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4.日の出

 山荘では、横にいた年配者のいびきのせいもあって、あまり眠れませんでした。しかし明け方にはすっかりよく眠っていたようで、4時半頃に皆さんの行動する音で目覚めたものの、もう一寝入りしたい気持ちでいっぱいでした。しかし決心して起床。カメラと三脚を持って外に出ました。もう東の地平は赤くなっています。まずいと思いながら、日の出が見られるポイントを探します。中岳が良いか、和合山にすべきか。いったん中岳に向かいかけたものの、思い直して和合山に向かいました。伊那前岳へ向かう稜線のピークです。

 時間がありません。走りました。息が切れますが気持ちがあせります。東の空は刻々と明るくなっていきます。この稜線上には、何人ものカメラマンがすでに陣取っていました。しかし、和合山にはアベックが一組のみ。気にせずセッティングする私。間に合いました。落ちついて良く見ると、雲海の上に八ヶ岳連峰が浮かんでいます。そのやや右から日が昇りそうです。その右に奥秩父の山。そしてその右に続くのは南アルプスの峰々。これがあまりにも巨大なシルエットで驚きました。その向こうに富士山も見えます。宝剣岳はもちろん、今日歩く予定の縦走路の山々。その向こうに空木岳と南駒ヶ岳の堂々たる両雄が、くっきりと見えています。思わずうれしくなってしまいます。


<南アルプス越しに見える富士山>

 左には浅間山や妙高山なども見えます。槍穂高から北アルプスの峰々も見えています。さすがに「中央」アルプス。広範な山が見渡せると感激しているところで、アベックから声があがりました。東の地平にオレンジの点が出現したかと思うと、徐々に大きくなっていきます。久しぶりに見る、山上からの日の出でした。思わず手を合わせる私でした。


<八ヶ岳右からの日の出>

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今回のコースを紹介しましょう。

1日目:駒ヶ根ロープウェイ〜千畳敷〜浄土乗越〜天狗荘(泊)
2日目:宝剣岳〜中央部縦走(檜尾岳、熊沢岳など)〜木曽殿山荘(泊)
3日目:空木岳〜空木平〜池山尾根〜駒ヶ根高原

5.大展望の宝剣岳越え

 中央アルプスで最もユニークなのが、この「宝剣岳」でしょう。大きな花崗岩が折り重なってできている岩峰です。今回はこれを横切って南下せねばなりません。「3人死亡」が頭をよぎってしまいます。それほど難しいクサリ場ではないはずですが、慎重にならざるを得ません。昨日ブロッケンにお目に掛かった山頂に到着してホッとします。今日は天気も展望も最高です。


<宝剣岳と天狗岩>

 


<北アルプスの峰々>

 


<八ヶ岳と甲斐駒ヶ岳>

 目の前に木曽駒ヶ岳と周辺の峰々。すぐ左遠方には乗鞍岳が。その向こうに穂高岳・槍ヶ岳、そして北アルプスの峰々が見えています。右へ妙高山などの上信越の山々。手前に高妻山なども見えているようです。さらに浅間山を右端とする山群があります。その右には蓼科山に始まる八ヶ岳連峰。先日行ったばかりの北八ツの峰々や、主峰赤岳などがバッチリです。その右遠方には金峰山などの奥秩父の山群が。

 さらに右が圧巻です。鋸岳のギザギザと甲斐駒ヶ岳のピラミッド。なだらかな仙丈岳。北岳から連なる白峰三山。富士山が小さな両耳の山頂部を現しています。とんがり頭の塩見岳。悪沢岳と荒川岳二峰が並び、赤石岳が鯨のようにあります。聖岳は本峰から奥聖の長い山頂がわかります。これらの三千米峰がドドーンと大きく横たわっている様を想像してください。


<南アルプスの峰々と富士山>

 さらに右へ回り込むと、中央アルプスの峰々です。足下から続く山脈。その先には空木岳と南駒ヶ岳が兄弟のように並んで見えます。その右に恵那山の横長な頭があります。手前右に三ノ沢の美しい三角が。もっと右には、雲海の向こうに巨大な山塊、御嶽が堂々たる姿を見せています。そのすぐ左遠方には、白山連峰が見えているようです。


<御岳山>


<中央アルプス南部の峰々>

 360度、日本の屋根を形勢する山々がぐるりと見渡せました。繰り返しになりますが、ここはやはり「中央」アルプスなんですね。全山、絶好のパノラマ展望台と言っても良いでしょう。宝剣岳のクサリ場は、南部にも数ヶ所ありました。しかし距離は短いし、慎重に行けば特に危険ということはありませんでした。岩場を無事通過すると、三ノ沢岳への分岐があり、そこから島田娘(ピークの名)まではなだらかな尾根が続いています。


<三ノ沢岳>

〜 その2へ続く 〜

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