教室にて。

ドアを開ければすぐ。









「仙ちゃーん!」

ドカッ。

気持ちのいいタックルをかまされるわけであった。
そんなことは仙一にとって分かっていたことなので、綺麗にかわすことぐらい容易だ。
ということは、ようするに。
「痛〜…」
さっきの気持ちの良い音は仙一に何かが当たった音ではなく、
「教卓にわざわざぶつかっていくなんて物好きだな、杏子」
杏子と呼ばれた少女が勢いに任せて教卓にぶつかった音ということになる。
「うぅ…仙ちゃんが避けるから悪いんだよ」
「避けないと当たるだろう?」
「仙ちゃんが避けると私がひどい目に遭うんだよ?」
「よかったな」
「なんで!?」
全然よくないと講義する杏子を無視しながら自分の席へと向かう。
その後に続いて杏子も付いていく。



「なんで席の位置が分かるのさー」
「最初は大体出席番号順で並んでるものだろ?」
「うっ……そうだけど…」
ああ。ようするに昨日のことが言いたいのか。
つまり入学式に来なかったくせに、この教室に初めて入るのに。
「一応学校には来てた」
「…えっ!?じゃ、じゃあなんで?」
一瞬なんのことか分からなかったんだろうな。
「なんとなく出たくなかった」
今から考えてみれば出た方が良かったのかもしれないが。
「そんな理由…?」
「他に言って欲しいか?」
「だーかーらー、そういうことじゃないて!!」
「じゃあどういう…」
「朝から痴話喧嘩とは…やるなとは言わないがせめて人目を気にしてくれるようになるとありがたい」
「ああ、おはよ久留須。お前とも同じクラスなのか」
いつの間にか二人の後ろに立っている少年、久留須景に片手を挙げて挨拶をした。
「おはよう景。君からもこの馬鹿になんか言ってやってよ!」
「それは無理だ杏子。こいつはこいつなりの事情があって、それは誰にも止められないと決まっているんだ」
「というわけだ」
「全然分かんないよ」
半ばあきらめた様子で、ため息混じりにつぶやく。
仙一、杏子、景は小学からの付き合いで、高校に入っても偶然なのか、同じクラスだった。
ようするに幼なじみである。
「悪かったよ。昨日は出なくて」
「これが初めてというわけでもないし、というかもう慣れてるけどさ」
始業式なんていつも出てなかったしと付け加えた。数え切れないほど。
「でも入学式ぐらい出て欲しかったな…」
「ま、それは俺も思ったぞ」
せっかく三人そろって合格できたのだから。
仙一だって思っていなかったわけじゃない。
「卒業式は必ず出るから」
「当たり前でしょ!!」
「杏子が留年しなけりゃな」
「黙れっ!」
杏子の手刀が景の首もとに入ったと共に、予鈴が教室に鳴り響いた。






戻る際につぶやいた言葉。



「お前も魅入られたか    









それは今の仙一にとって理解できないでいた。