ぎしぎしと、ベッドのきしむ音が部屋に響く。
それ以外には、荒い息づかいと、悲鳴に似た、甘い声。
それらが混じり合った空間は、なんとも奇妙で異様だった。
「く…っは、……あはっ………」
ぐちゅ、と淫らな音を立てて一気に押し込めば艶やかな声を出す。
男は無言でただ深く突きつけた。
蜜が溢れ出し、幾つもの染みをつくる。
「ひゃん…はぁ、も…っとぉ……」
キスを強請れば、荒々しく口内を喰いばんでいく。
お互いの唾液が混じり合い、口端から顎へと伝っていく感覚に奮えた。

決して愛のある行為ではなかった。
快楽という名の毒に犯された女が、男にソレを求めているだけ。
「あ、あ…あああぁあぁっ……!」
絶頂に昇り一段と深く蜜壺を抉ってやると、女は果てた。
ズルッと肉棒を引き抜けば、女は余韻のため身震いする。
肩で息をしながらぐったりとベッドに倒れている横で、男は息一つ乱さずもう服を着ていた。
「もう……行っちゃうの?」
「ああ」
名残惜しそうに言おうと、男は完結に答えるだけ。
「仕事?」
興味があるわけではない、ただ男の気を引きたかっただけだったのに。
「そんな命でも惜しいと思うのなら…二度と聞かないことだ」
言葉で人が殺せるのなら、彼女は死んでいたに違いない。



マンションから出て空を見上げれば、晴れ。
「嫌な仕事だ」
吐き捨てるように呟やいた言葉は、誰に向けたかったのだろう。






「この子が?」
「ああ、まだ眠ってはいるが」
真っ白な部屋に横たわる小さな身体。
腕は細く、白い。
「砂漠で見つけてきたんじゃなかったの?」
「そういう体質なんだろう」
そうかなぁ、と呟くが無視され、代わりに束になった報告書が手渡された。
「彼女に関する調査のまとめだ。一応お前にも渡しておく」
「それはどうも」
「…彼らは、元気か?」
「気になる?」
珍しいといわんばかりの口調に男は少し顔をしかめるが、声のトーンは変わらない。
「おかしいか?」
「別に。あなたにも人間味があったんだなーって」
「私的な感情はいらない。ただ彼らは生きてもらわないと困る」
それだけだ、と。当たり前のように話す男に、彼女は可愛そうだと思った。
「元気だよ…相変わらず。可愛いし」
「そうか」
「そっちは…?」
「元気なんじゃないのか」
「何ソレ」
期待はしていなかったけど、とため息を吐く。
同情する瞳に男は踵を返し、
「一時間後、琴葉をつれて来る」
それだけ告げると、足音もたてずに部屋から出て行った。

「素直じゃないよね」
勿論、出て行った男に向けられた言葉だ。
  素直じゃない。
「私もだけど……」
自嘲気味に笑い、女もフワフワとした髪をなびかせながら白い空間から抜け出した。