血が騒ぐ。
それもそのハズ。
目の前に映っている者は、偶然なのか必然なのか、出会ったオンナノコ。
この時ほど自分にこの能力があってよかったと思ったことはなかった。
これほど助けたいと思ったことは無かったのに…
多分一度自分に見せてくれたあの笑顔をが忘れられなかったからかもしれない。









「…き‥よ……」



何だろう……
遠くの方から聞こえてくるように響く。



「起きろよ…」
目覚めよ、のことだろうか?









「ん……」
なかなかいうことをきいてくれない瞼ををなんとか開く。
「あ、れ……?」
覚悟していた眩しい光の矢はなく、変わりに記憶にない人影。
まだだるい体を持ち上げ、ぼやけて見える視界をこらす    が、やはり知らない存在だ。

「あなた……誰  ?」

逆光と空の端に残っている薄暗さで素顔がよく見えない。
初対面かどうかすら判別できない。
  ただ、この辺りの者ではないことと、性別は男ということは感じた。
半分はカンとも言えるが。
「怪しい者ではない…って下手すぎるか。とにかく、初対面ではないといたところだ」
「!……どうして  



分かったのか…?
言葉が後に続かない。
自分ではそう思わないが、以外と顔に出るタイプだったのか。



いや、そうじゃない」
「読ま    
「いや、ただのカンだ」
嘘だ。
とっさに南は思う。
信じたくはないが彼に自分の心の中を読ま  
「れてる…いや、読んでると言った方が正しいか」
脅し…だろうか。
「そんな物騒なこと考えるモンじゃない」
完璧に分かられている。
有り得ないこと  あってはならないことが現実として起こっていた。



「どう…し……」
口が思うように動いてくれない。
頭の中でも心の中でも解ることがすぐにできないもだ。
それが行動に表れてしまっているのが嫌なように思う自分に、なぜか苛立った感覚を覚えた。
「……?」
南の見間違えなのか、一瞬ふっと笑った…?  そんな気がした。
気がしただけだったのかもしれないけれど。
「南…変わったけど変わってないな」
「名前…」
「知ってるよ」
今度は本当に笑った。
「私のことも…」
「少しなら…いや、昔の南のことは知ってる」
「記憶を…読んだ.・の……?」
「言っただろ、昔のお前のことしか知らないと」
記憶は読めないということなのだろうか。
「読もうとすれば読めるが、よっぽどのことがないかぎりしない」
「……」
「心の声。つまり思っていることは読むことができるけどな。」
話さなくても思えば通じる、ということだろう。
しかしそれはそれで会話にならないのではないか。
つかみ所のないというかかみ合っていないというか、はたから見れば理解できない状況である。
「だったら口で話せよ。しゃべれるだろう?それとも  
「…なんかあなたと話しているとへんな感じがする」
この挑発的な口調を一時でも押さえないといけないという脳からの命令に瞬時に応え、目の前の彼の言葉をさえぎる。
「あなたは私のこと知っていても、私は知らないよ…?」
「それは覚えていないだけだ」
さらりと言われ、言葉に詰まる。
どうしてそうこたえることができるのだろうか。
この人は、何を思って言っているのだろう。






「……悲しい…?」






自然と口から出た言葉。
あわてて手でふさぐ。



「なぜ?お前にそれが分かるのか?」



確かに……
どうして私はそう思ったんだろう。
「感情の持ってないヤツはそんなこと思わないモンだがな」



どうしてだろう  






「分からない…」






  捨てたはずなのに。
  消したはずなのに。
  失った    はずなのに。












「守っているんだよ」

そのとき、この人は何に対して言っているのか、南には解らなかったし、解かりたくなかった。