カチャカチャ……
話し声など一文字も無く、沈黙に包まれたままただ箸を動かす。
朝から活気という言葉が似合わないほどのこの静けさは一体何だろう。
初めてこの家庭と共に食事をしたのならば絶対に思うことだ。
しかし南にとって今更…といった感じで、もうなれと化していた。
(それにしても  あの人は誰だったんだろう…?)
聞きそびれてしまったことを悔やんでもしかたがないが、頑張って過去の記憶をたどっても、あの人物に当てはまる者にはたどり着くことができなかった。
「………」









あれ以上聞きたくなくて瞳を閉じていたら、いつの間にか例の人は消えていた。
それからどうしたかというと、結局いつまでもこの場にいることもできないので、バカみたいだが戻ってきてしまったのだった。
どうせ叱られるのなら  と、玄関から入っていったところ、予想とは大幅に違った。

「あら…いつの間に外へ出たの?気付かなかったわ」
と。


呆れてなのか、いい言葉がでてこない。
「一体何しに出たの?」
「あ、ちょっと…散歩に……」
「そう…じゃあ、手を洗って朝食の準備手伝ってくださるかしら」
「はい」



子供(ガキ)じゃないんだから…と思いつつも、素直に手を洗う。
ひとまず夜抜け出したことがばれてなかったのが一番南を安心させた。
もしかして夜いなかったことが知られ、「何処に行っていたのか」などと聞かれたら「向こうにある小川の土手で野宿してました」なんて答えることができない。
この家族がそこまで気が利かなくてよかったと、あまりよいとはいえないことだがとにかく心からそう思ったのは言うまでもない。









「…さん」

「‥なみ、さん」



え………






「南さん!」

「は、はいっ!?」
ガタンッ
慌ててつい席を立つ。が、



「……あれ…?」



周りには誰も座っていない。
そして背後から冷ややかな視線。
そっと後ろを振り向くと案の定、義母の姿がある。

「早く食べてもらえるとありがたいのだけれど」
「ご…ごめんなさい」

言うが早いかすとんと席につくと皿に残っている物を口腔内に全て詰め込め、
「ごちそうさま!!」
と我が夢中で台所から出ていった。
そんな姿を唖然と見送る。

「あの子……何かあったのかしら」
いつもならあんなに」取り乱した(?)りはしなかったハズ。
それに今、
「笑わなかったかしら?」
ほんの一瞬……ごまかしのつもりだったかもしれない。だが、確かに南は「笑った」のだ。
一体何があの子を変えようとしているのか……
「まさか、ねぇ…?」
ふうと今のセリフを消すように息を吐くと、何事もなかったように食器を洗い始めた。









ゴソゴソ……



「ない…こっちかな?」



ゴソゴソ……



「やっぱりない…もしかしてこの中とか」
ゴソゴソ……



「期待してなかったけどない、と…」






ハァ……
できるだけ大きくため息をつく。
「どうしてないのかな……」
それは綺麗に片付けなかった自分が悪いのだが、そのことは棚に上げておく。
「アルバムって結構大きい物だから直ぐに見つかると思ったけど、甘かったかな」
かれこれ探し続けて三十分以上立つ。
だが、未だにアルバムと思える物は姿を現さない。
「確か近所のこと遊ぶとき、よく写真撮ってたからね…」
だからそのころの写真を見れば昨日会った謎の人物の正体ももしかして思い出すかもしれない。
そう思って探し始めたものの、出てくるどころか部屋さえ汚くしていった。
もう、足の踏み場もないくらいである。
「うーん…もうダメ」
ギブ・アップ。
ごろりと横になると、その辺に散らばってる本の中の一つを手に取り、適当なページを開く。
そのままボーっとしていたが、いつの間にか段々暗闇に落ちていった。