「あ、雨……」
さっきまでは晴れていたのに。こういう気候なのだろうか。中界というところは。
    ゴメン、ワスレテ…
少女が出ていく時置き忘れていった言葉が頭の中でリピートされ続けている。
「………」
ゆっくりと窓を開け、手だけを雨にさらす。
一つ、二つ、三つ……
きりがないほど手のひらに落ちてくる水滴は、なぜかとてもつめたく感じられた。
すぐにたまった雨は溢れ、腕を伝って地面へと還っていく。
肘まで伝った者は床へと落とされていく。
ポタ  ポタ  と。何かを哀れむように。人の雫のように。

            

雨は嫌いだ。
どうしてかは分からないけれど。でも、押しつぶされそうな  そんな風に感じるから嫌だった。
いつも雨が降った日は部屋に閉じこもって、仲間を呼んで、馬鹿騒ぎして。
考えないよう、気が向かないよう、忘れるようにした。
しかし今は  紛らわすことなんてできないし、したくなかった。
彼らを見て、触って、掴んで    真っ直ぐ触れて。
胸はすごく痛くて裂けそうだった。少しでも気を緩めれば押しつぶされそうだった。
それでも。
止めたくない。
今は、この痛みの方がまだマシだから。
彼女の言葉が突き刺さるよりも。
「……冷たいな」
現在(いま)ならこのまま身体ごと雨たちにさらしていたい。
カーテンが濡れているのをお構いなしに、窓から庭へと抜けていった。
まだ完全に塞いでいない傷も雨に打たれれば直るかもしれないとも思ったから   






「あ…」
雨が降っているのに。しかも結構激しい。
「好きなのかな…雨」
好きって言ってたんだし。私は濡れるから嫌いだって言ったけど。
あの時も降ってたから…。
私にとっては不幸を招くんだ。雨は。
でも彼にとっては反対…みたい。それはそれで寂しいけれど。
「傘もささずにいるのは、よっぽど好きなんだ……」
記憶は消えても感覚はまだ残っているのかもしれない。
だが。



無意識に窓へ歩み寄ると、
「風邪……ひいちゃうよ?」
喉から綺麗に出た声。
雨の音はとてもうるさい。
それでも彼には届いたらしく、こちらを向いて仄かに笑って






「アリガトウ」



と、返した。






その表情はとっても痛々しくて、でも綺麗すぎて、涙が出るほど、
悲しくて嬉しかった。


      っ」


ここに来てから泣いたこと無かったのに。
ピト    
冷たくて繊細な手が頬をかすめる。
目の前がよく分からなくなって、すごく暑いのに、頬から伝わる冷たさが気持ちよくて、自然と手を重ねた。



「ゴメン」

「ううん。違う    



欲しい言葉は。



「じゃあ、なんだ?」



一つだけ。






「ありがとう」






  そうだな」