あれからどれくらいの時が過ぎたのだろうか。
旅をしてきた中で、一体何を得たのだろう。
歌を探し求めてきた自分が、今こうして彼女といること。
証された前世の記憶。









「…結果オーライなら良しとするべきか」
「何か言った?」
ポットをテーブルに置く音と重なったのだろうか。ポツリとつぶやく言葉が上手く聞き取れずもう一度訪ねる。
「いいや、別にたいしたことじゃない」
注いでもらった紅茶を口にすると、彼女もつられて飲んだ。
またこの少女と日常を過ごすことができるのは、夢にも思っていなかったのだから。
辛いことも、苦しいことも。
楽しいことも、うれしいことも。
久々の快晴で、日の光が眩しい。
予想不可能な天候が、彼等の心情を左右させるのだろうか。
ふと思いついた言葉でも口に出してしまいそうで。
「清音…中界を出ないか?」

  ゲホッ。

ほら、ね。

「むせるなよ」
「突然思いついたような口調でサラッと言わないでよ……」
気管に入ったのだろうか、ゴホゴホと咳き込む。
「だって、俺はそろそろ天中に戻らないと住民名簿から消されそうだし」
「そんな早く消されるの?」
「ああ、今までに3度消された記憶がある」
威張ることではないがな。
「…何処行ってたの?」
「天界や王都に長く滞在しすぎてね、戻ってきたときには綺麗サッパリ」
大抵、どこのエリアも出てから1年以上過ぎても戻ってこないと名簿から消去される。
何処かに移住したか、又は死亡したか。そう判断されるのだ。
消去されても、一応5年間は記録が残っているので、本人だと確定されれば再発行してもらえる。
あの事件からもう1年たとうとしているのだ。時の流れは速いのだろう。
「そっか…もう1年もたつんだ……」
ちょうど自分が落ちてきたところに目をやり、心なしか苦笑いになる。
そりゃ、出会いは空から降ってきた謎の飛行少年だもんな;
「だから、ここ出ない?」
「遠慮しときます」

ぐあっ。

ぐさっとなにかが突き刺さる。
「どうして…って顔してるよ」
「あたりまえだろう」
「それもそっか」
淡々としたセリフの飛び交い。

「どうして?  俺とじゃ駄目…?」
目を合わせようとしない。うつむきがさらに深くなる。



「駄目じゃ…ない……」
「じゃあ」
「でも  でも…行けない」



泣いているのか、笑っているのか。それすら分からなかった。
乱れる感情に付いていけない。
「私はここから出ることができない……」
「どうして!?」
「飛べない天使だから…落ちこぼれだから……」
「関係ないだろ!!」
「あるよ……そして    
目に映る全てのものがゆがんで、あやふやで、熱い。
「私は歌持ちだから……」
感情が熱い水滴へ変わるのを止める事なんてできなかった。
飛び方を忘れたかのように、あふれ出すものの止め方をどうやら私は忘れてしまったらしい。